減災コミュニケーション・バンダナデザイン・コンテスト2016

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テーマ解説

減災コミュニケーション・バンダナの
考え方と希求されるデザインについて

1)バンダナは、「0次の備え」の減災グッズ。

 私たちはいつどこで被災するかわからない。だから、非常時の備えとは、自宅にだけ備えておいても充分とは言えません。出かけるとき普段から携帯する物などにおいても、いざという時に役立つ備えの要素をいかに盛り込んでおけるかという視点も大切と考えられます。昨今では、非常時の1次持ち出し品、2次のストック用品だけでなく、これと合わせ、いつも身につけたり、普段の暮らしの中に取り込む「0次の備え」としての発想も大切であると言われるようになりました。大判ハンカチやバンダナは、その「0次の備え」の具体的アイテムのひとつです。もしハンカチを1枚もつなら、小さなハンドタオルよりも、大判の方が、いざという時の汎用性が広がるという点で。例えば、非常時に包帯、三角巾、帽子、マスク、etc.さまざまな物の代用として使えます。(※参考事例1 参照)

2)メッセージを示すバンダナを非常時に活かせたら!

 震災等の被災時には、人は互いに助け、助けられる関係になります。その時、助けを求める側がどのような支援を必要としているのか、また支援をしようとする側にはどのようなスキルがあるのか。混沌とした現場で、物資も不足し情報も錯綜する中で、双方がそれをスムーズに認識・把握することは困難です。この情報の共有不足こそが、できるだけ軽減させたいはずの混乱の種にさえなるでしょう。いざというときに互いのニーズやスキルを共有しうることこそ、効率的な減災対策の1つと言えるかもしれません。こうした学びは1.17阪神・淡路大震災以降、蓄積されてきたことのひとつで、東日本大震災においては、個々のスキルをゼッケンに示し身につける手法を導入するという発想で、この仮題克服に挑む事例もありました。(※参考事例2 参照)

 「私は○○を求めています。」「私は○○ができます。」と記し表明すること。もし何もないなら、「無地のバンダナにマーカーで情報を記し」首や頭、腕に巻いてもこれを達成できそうです。数々の減災グッズの中でもバンダナこそ、このカオスとなった被災地で、情報コミュニケーションをリアルにサポートする機能を携えた減災グッズとも言えるのではないでしょうか。

3)バンダナの図や柄に、予めコミュニケーション機能を取り入れる

 こうした視点で、被災時に助け合いを成立させるための「コミュニケーション・バンダナ」製品がすでに開発されています。(※参考事例3 参照)

 この製品では助けたい側だけでなく、助けを求める側も、それぞれ自分の立場を表明できる、リバーシブル使いの図柄で構成されています。さらにこの製品が革進的なのは、「非常時だけを視野においているわけではない」ことです。平常時にも、私たちはさまざまな助け合いが必要です。妊婦や、障害のある方などは、そのときその場で健常者と同様には振る舞えないことを見た目からだけでは表現し得ない場合があります。そのため、マタニティーマークや各種障害のシンボルマークが開発され、身につけること等も普及しています。また見れば障害があるとわかる場合でも、今助けを必要としているのか、判断できないということが多々あります。こうした時に、このバンダナは、双方が互いに一歩踏み込んでコミュニケーションをすることをサポートしてくれます。例えば「今、手が届かない(から誰か手伝って!)」というニーズを、瞬時に伝え把握しあえます。まずは平常時の暮らしの中での広がりが期待される発想と言えるのではないでしょうか。そして、このようなサインを発信しあって、普段から円滑なコミュニケーションができる社会であればこそ、非常時のコミュニケーションにおいても豊かにしあえるのではないでしょうか。(※参考事例4 参照)

4)地域コミュニティで必要なコミュニケーション

 私たちの社会はいま、核家族化が進み、地域の自治会などの結束力が弱まり、また、高層マンション住まいでは大勢の方がひとつの建物に集中して暮らしながら、互いに干渉し合うことをできるだけ排除するようなライフスタイルが広がっています。こうした姿は、何も問題がないかに見える日常においては、隣人・地域の人と絡み合うことによる煩わしさからは解放されますが、見えないところに潜伏的にある危険や、いざというときの対応においては脆弱度を増してしまっています。日頃からつながりの稀薄なコミュニティ。それはいざという時にもやはり減災がままならないコミュニティなのだと思われます。各家庭、そして家庭と家庭が連なって構成されている地域の防災・減災力の底上げをするために、私たちはどのようなことに取り組めるでしょうか。マンションにおける自主防災において先駆的な取り組みを進める加古川グリーンシティ防災会による「ちからこ部」。この事例では、マンションの住民が個々の持つスキルをあらかじめ登録しあっておき、イザという時に誰がどんなスキルで支援側につける存在であるのかをあらかじめみんなで掌握しておこうという取り組みを進めています。これは事例1や2で紹介した、「私にできること」を、必要時にその時はじめて示し合うのではなく、平素から互いにあらかじめ示しておく、という点で、さらに一歩、日常の中に減災を浸透させておく発想と言えます。

5)試しに作ってみた、メッセージ・バンダナ

 こうした先行事例をリスペクトしつつ、これからの社会で育みたい豊かなコミュニケーションを思いながら、プロジェクトでは東日本大震災の復興支援チャリティーライブイベントで、このコンセプトを込めたオリジナルのコミュニケーション・バンダナをつくってみました。(※参考事例5 参照)

 このバンダナには、できます!やります!を表明する空欄の吹き出しがあり、そこに自分が書きたい言葉を書き込める図柄になっています。首に巻いた時に調度そのメッセージが表出します。

 このイベントでは合わせて、音楽フェスに出演する数々のアーティストに依頼し、この吹き出しに個々の「できます!」「やります!」を書き込み発信してもらったところ(「できます!メッセージ」と名付けて展開しました。)、被災時であるなしにこだわらず、アーティストが自分のスキルをさまざま・多様に表明してくれました。普段は音楽をしているアーティストが、「ロックできます!」などと書いても当たり前ですから、音楽に関わることはどなたも書かれませんでした。逆に音楽表現以外のご自分の得意技など、意外?かもしれない一面を披露しあう形になりました。「大型特殊の運転」できます!とか、「豚バラ丼おいしく調理」できます!・・・などと、なんだか面白い。へーそうなんだ!の連発です。できます!やります!の表明が、非常時の助け合いで必要かつ価値があるのはもちろんですが、非常時に向けて深刻に話すだけでなく、このように普段の暮らしの中で普通にスキルを交換して、互いにもう一歩、知りあい、近づきあっていたら、非常時にはじめて名乗りを上げるより、近隣の助け合いを円滑スマートに展開させることに力を発揮するのでは、と思わされました。非常時を考えると、普段からの人と人、ご近所同士の助け合い、コミュニケーションが大切と、もっぱら言われますが、そのことを具体的にどのように進めるのか。非常時のことも思えばこそ、いつもの暮らしでの人と人の交流が豊かであることが願われます。非常時に私たちが皆で助け合い乗り越えるために、私たちは普段から互いに豊かにコミュニケートし、みんなが互いの個性・持ち味を知り、仲良しになって楽しく生きているべき。そんなことに改めて気がつかされます。

 この「できます!バンダナ」を使って日々遊ぶことも、そうしたことを進めるきっかけになるのでは?と感じます。

6)まとめ:主題の確認

 いつも身に付け、そしてコミュニケーションする装置。減災バンダナは、コミュニケーション・バンダナです。

 日々、ハンカチとして持ち歩けるバンダナが、使いながらに人と人のコミュニケーションを促進させ、より楽しく豊かなコミュニティを築く一助・きっかけとなる。前段までの事例でそのことの意義を理解いただけたなら幸いです。そんなバンダナのコンセプトを「減災コミュニケーション・バンダナ」と名付けてみました。ですがこのコンセプトを具現化するデザインは、まだまだ未開です。正方形のグラフィックのなかにこれを込めて成立させる発想・展開は、まだ手つかずで無限の領域がそこに広がっていると思われます。

 そこで我こそはという方にこの「減災コミュニケーション・バンダナ」をデザインしてみていただきたい。それが今回コンテストの主題です。

 防災力・減災力の高い社会づくりのために、グラフィック、テキスタイル等の分野のデザイナーが、ひとつ貢献するきっかけとなるでしょう。

 ぜひ、コンテストにご参加ください!

2015年秋 減災デザイン・プロジェクト

人と防災未来センター発行の減災グッズチェックリスト
※参考事例-1
人と防災未来センター発行の減災グッズチェックリスト
http://www.dri.ne.jp/utility/
utility_checklist
「できますゼッケン」
※参考事例-2
「できますゼッケン」by issue + design
http://issueplusdesign.jp/
dekimasu/
「お手伝いバンダナ・医療バンダナ」
※参考事例-3
「お手伝いバンダナ・医療バンダナ」
by プチハウスなな
http://www.togakikuyo.com/
bandana.html
加古川グリーンシティ防災会のちからこ部
※参考事例-4
加古川グリーンシティ防災会のちからこ部(旧名称:町内チャンピオンマップ)
http://www.greencity.sakura.ne.jp/greencity_ bousaikai/kakusyu-torikumi/champion-map.htm
「できます!」「やります!」バンダナby COMIN' KOBE
※参考事例-5
「できます!」「やります!」バンダナ
by COMIN' KOBE
アーティストによる「できます!メッセージ」
※参考事例-6
アーティストによる「できます!メッセージ」
上:前川 真悟さん(かりゆし58)
下:北島 康雄さん(四星球)
by COMIN' KOBE